
技能実習制度の廃止とともに、新たに導入される「育成就労制度」。
この制度の最大の特徴は、単なる制度変更ではなく、監理団体の立ち位置と役割そのものが大きく変わる点にあります。
これまでの「監督・管理」中心の体制から、「育成支援・品質管理」中心の組織運営へ――。
この記事では、監理団体に訪れる主な変化と、今から取るべき対応策を解説します。
技能実習制度からの移行で何が変わる?
目的が「国際貢献」から「人材育成」へ
従来の技能実習制度は、「開発途上国への技能移転」を目的とする“国際貢献”型の制度でした。
しかし育成就労制度は、日本国内の人材不足を補い、外国人材を労働力として育成・定着させることを主眼としています。
この目的の違いが、監理団体の業務内容にも大きな影響を与えます。
つまり、これからの監理団体は「監査・チェック」よりも、「教育・支援・伴走」が中心になるのです。
在留資格・転籍・職種運用の変化
新制度では、外国人本人が希望すれば、一定条件のもとで転籍が可能になります。
そのため、監理団体は企業間のマッチングや契約変更の支援、さらに転籍手続きの透明化に関与する場面が増える見込みです。
また、受入れ可能な職種や在留期間も再設計される予定であり、職種管理・計画管理の精度が求められます。
書類・手続きの複雑化とデジタル化の流れ
育成就労制度では、新たに「育成就労計画」や「評価記録」など、実習時代にはなかった書類が登場します。
これらの提出や更新が電子申請に対応する方向で進んでおり、従来の紙ベース管理では処理しきれないケースが増えるでしょう。
監理団体の責務が重くなるポイント
監督責任から「育成支援責任」へ
これまでの技能実習制度では、「法令順守の監督・報告」が主な役割でした。
一方、育成就労制度では、外国人材の成長支援そのものが監理団体の評価軸になります。
たとえば、技能や日本語レベルの到達度、OJT/Off-JTの実施状況、企業側の教育環境――これらをモニタリングし、改善を促すことが求められます。
つまり、監理団体は「チェックする側」から「成果を共に作る側」へと進化するのです。
人権・労務管理の強化
政府は、新制度の柱として「外国人の人権保護と適正な雇用管理」を明確に掲げています。
監理団体は、定期面談・苦情対応・生活支援など、人材ケアに関わる記録と対応を強化する必要があります。
不備や放置があると、認定の更新停止や行政指導の対象となる可能性もあるため、組織的な対応体制を早めに構築しておくことが重要です。
認定・監督の厳格化
育成就労制度では、監理団体(新名称は「監理支援機関」などを検討中)に対して許可制・認定制が導入されます。
書類審査だけでなく、体制・業務実績・教育計画の内容などが審査対象になります。
行政からの監査や報告要求も増えるため、内部統制と記録管理の徹底が不可欠です。
監理業務のDX化が必要になる理由
業務量増加と人員不足の両立課題
制度移行により、育成計画・教育記録・面談記録などの業務が増加します。
一方で、監理団体の人員や予算には限界があります。業務のデジタル化(DX)によって、限られたリソースで膨大な業務を回すことが現実的な解決策になります。
アナログ管理の限界とリスク
紙の書類やExcelによる台帳管理では、更新漏れ・誤記・紛失といったリスクが常につきまといます。
制度改正に伴う監査・報告義務が増える中、こうしたアナログ運用は不備や行政指摘の原因になりかねません。
DX化により、データ入力の重複を削減し、承認や進捗状況をリアルタイムに可視化できる体制を整えることが重要です。
制度対応とガバナンス強化の両立
クラウド型システムや電子申請対応ツールを導入すれば、
書類作成・申請・承認の履歴がすべてデータとして残り、監査時にも証跡として活用できます。
DX化は単なる効率化ではなく、「法令遵守+信頼性の担保」というガバナンス強化にも直結するのです。
今後導入すべき管理システムとは
必要な機能の方向性
今後、監理団体が導入すべき管理システムには、次のような機能が求められます。
- 育成就労計画・進捗・評価を一元管理
- 外国人材・受入企業のデータベース化
- 報告書・帳票の自動生成と期限アラート
- 電子申請・電子署名対応
- 多言語表示・クラウド共有機能
これらを統合的に運用できることで、職員の作業負担を大幅に軽減し、行政監査にも対応できる体制を構築できます。
導入のタイミングとポイント
制度詳細(政省令・様式)は2025年中に順次発表が見込まれています。
その前段階として、「システム化を前提とした業務フローの整理」を進めておくことが最重要です。
運用ルールを先に固めておけば、正式な書式が公表された際にスムーズに移行できます。
まとめ
育成就労制度の導入は、監理団体にとって「監査から育成支援へ」という歴史的な転換点です。
業務量は増える一方で、組織の価値を高めるチャンスでもあります。
アナログな運用から脱却し、DXと体制整備を同時に進めることこそが、
これからの時代に信頼される監理団体への第一歩となるでしょう。
(※本記事は2025年段階の公表資料に基づく解説であり、今後の法令・運用要領の改定によって内容が変更される可能性があります。)
📚 出典一覧(情報ソース)
【公的資料・一次情報】
- 法務省 出入国在留管理庁(ISA)
- 「育成就労制度の創設及び特定技能制度の見直しに係る関係法律の公布について」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001438443.pdf
(※2024年6月21日公布。改正入管法・育成就労制度関連法の概要を解説) - 法務省 出入国在留管理庁
- 「育成就労制度の骨格について(有識者会議最終報告書)」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001437136.pdf
(※育成就労制度の目的・在留資格・転籍・監理団体の新役割を示した骨格資料) - 厚生労働省
- 「育成就労制度に関する検討会報告資料(2024年3月)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001301676.pdf
(※技能実習制度からの移行方針、人材育成計画の考え方、教育・評価体制を整理) - 外国人技能実習機構(OTIT/IMM)
- 「育成就労制度に関する法改正の成立について」
https://imm.or.jp/cms/jp_news/20240704notice1/
(※制度成立と今後の移行スケジュールに関する解説)
【専門メディア・業界解説】
- マイナビグローバル(Global Saponet)
- 「育成就労制度とは?在留資格・技能実習との違い・開始時期を徹底解説」
https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/visa/18276
(※監理団体・受入機関の役割や在留資格の変化を解説) - 明光グローバル(Meiko Global)
- 「育成就労制度の課題と懸念点」
https://meikoglobal.jp/magazine/problems-with-fostered-work-system/
(※制度運用上の課題、転籍・職種制限の方向性を整理) - NBC協同組合連合会
- 「育成就労制度の骨子案が公表されました」
https://www.nbc.or.jp/blog/20231214_6777/
(※監理団体・受入機関の実務上の変化をわかりやすく解説)
【補足参考(制度設計・デジタル化動向)】
- 法務省 有識者会議 最終報告書(2024年3月)
- 「新たな外国人材受入れ制度の在り方について」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001437135.pdf - 内閣官房 デジタル行財政改革会議
- 「行政手続のデジタル化に関する方針」(2024年)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitalkaigi/


