2024年に成立した改正入管法により、長年続いた「技能実習制度」は段階的に廃止され、新たに「育成就労制度」が導入されます。
この制度は、単なる名称変更ではなく、「目的・仕組み・書類・監督体制」のすべてが変わる大改革です。
本記事では、技能実習制度を運用中の受入企業や監理団体が、スムーズに移行するために押さえておくべきポイントを整理します。

移行対象となる受入企業・団体の条件

育成就労制度は「適正運用」企業が前提

育成就労制度の受入対象となる企業・団体は、これまで技能実習制度を適正に運用してきたことが条件となる見込みです。
法務省・厚労省の資料では、過去に重大な法令違反や人権侵害の指摘を受けた団体・企業は、新制度下での受入れが制限される可能性があるとされています。

つまり、これからの監理団体・受入企業に求められるのは、「法令順守+教育実績」です。
特に、外国人材の労働時間・賃金・苦情対応の履歴、監査報告の記録など、これまでの運用履歴が新制度の審査時に重要視されるでしょう。

育成計画と評価制度への理解が必須

育成就労制度では、受入企業が「育成就労計画」を作成し、行政(または認定機関)からの認定を受ける必要があります。
これは従来の「技能実習計画」に代わるもので、教育・評価・キャリア形成を重視した新形式です。
企業が自社の教育体制やOJTプログラムを明文化できていない場合、早急な整備が必要です。

技能実習生を継続雇用する場合の対応

移行時期における「経過措置」

現行の技能実習生を継続して受け入れている企業は、「経過措置」の対象になります。
法務省の方針では、制度施行後しばらくは、在留資格を変更せずに技能実習を継続できる期間が設けられる見込みです。
その間に、企業と監理団体は「育成就労」への移行準備を完了しておく必要があります。

継続雇用のための在留資格変更

技能実習から育成就労へ移行する際、外国人本人の在留資格を「技能実習」から「育成就労」に変更する手続きが必要です。
これには、以下のような書類が想定されます:

  • 育成就労計画書(受入企業作成)
  • 監理団体の推薦書・支援体制の証明
  • 教育・評価記録(技能・日本語レベル)
  • 雇用契約書(新制度基準に適合)

監理団体は、これらの書類を整理・提出できる体制を整えておくことが求められます。

実習生本人への説明と同意

制度変更は外国人本人にも大きな影響を与えます。
雇用契約の内容、転籍制度の違い、評価制度の仕組みなどを母語で丁寧に説明し、書面で同意を得ることが重要です。
説明不足はトラブルや離職につながりかねません。

監理団体の移行対応チェックリスト

制度移行に際して、監理団体が今から取り組むべき主な対応を5つのステップで整理します。

  1. 現行制度の運用実績を整理
     技能実習における監査記録・報告書・苦情対応・指導履歴を整理し、過去の指摘事項を是正しておきましょう。
  2. 育成就労制度の要件把握と社内研修
     制度骨格(法務省・厚労省公表資料)を読み込み、理事・職員向けの説明会を実施します。
     「目的・書類・評価制度」の理解が不十分だと、新制度対応に遅れが出ます。
  3. 育成就労計画書のテンプレート準備
     正式な書式は2025年中に公表予定ですが、既存の技能実習計画書をベースに、教育目標・評価指標・日本語学習支援などを含めた草案を作成しておくとスムーズです。
  4. ITシステム・書類管理の見直し
     移行期には、技能実習と育成就労の書類が並行して存在するため、混乱を避けるためにクラウド型の書類管理システム導入を検討しましょう。
  5. 受入企業への制度説明・サポート体制強化
     監理団体が主導して説明会を開き、受入企業に対して新制度のポイント・スケジュール・必要書類を共有します。
     企業側の理解が浅いと、制度開始時に申請遅れや誤提出が発生します。

移行期にトラブルを防ぐポイント

書類の二重管理に注意

技能実習と育成就労の両制度が一時的に並行運用される時期は、書類管理の混乱が最も起こりやすい時期です。
制度ごとにフォルダ・データベースを分け、書類名と在留資格を明確に紐づけることで誤提出を防ぎましょう。

送出し機関との連携強化

海外の送出し機関も新制度に対応する必要があります。
転籍・教育内容・費用負担の取り扱いなどについて早めに情報を共有し、送出し国との連携ミスによる遅延を防ぐことが大切です。

外国人本人とのコミュニケーション

制度変更による不安を取り除くため、定期面談やアンケートを通じて外国人材の声を拾うことが有効です。
制度への理解が深まれば、トラブルの発生率は大幅に下がります。

機関内での責任分担を明確に

移行期には、監理団体内で「技能実習担当」と「育成就労担当」が並存する可能性があります。
誰がどの業務を管轄するのか、役割分担を明文化しておくことで、内部混乱を防止できます。

まとめ

育成就労制度への移行は、監理団体と受入企業にとって大きな挑戦ですが、事前準備次第で混乱は防げます。
「技能実習の延長」と考えず、新制度としてゼロベースで体制を見直すことが成功のカギです。
書類管理・教育計画・システム整備の3点を今から進めることで、2026年以降の施行にスムーズに対応できるでしょう。

新制度のスタートを前向きなチャンスに変えるために、いま動き出すことが最善のリスク対策です。

(※本記事は2025年段階の公表資料に基づく解説であり、今後の法令・運用要領の改定によって内容が変更される可能性があります。)

参考文献・出典

  • 出入国在留管理庁「育成就労制度の創設及び特定技能制度の見直しに係る関係法律の公布について」(2024年)
  • 出入国在留管理庁「育成就労制度の骨格について(有識者会議 最終報告書)」(2024年)
  • 厚生労働省「育成就労制度に関する検討会報告資料」(2024年)
  • 外国人技能実習機構 IMM「育成就労制度に関する法改正の成立について」(2024年)
  • Global Saponet「育成就労制度とは?技能実習との違い・開始時期を解説」
  • Meiko Global「育成就労制度の課題と懸念点」
  • NBC協同組合連合会「育成就労制度の骨子案が公表されました」
  • JETRO「外国人材受入れ制度の見直し概要」
  • 日経クロステック「外国人雇用制度の再設計とDX化の動向」