「ベトナム在住VIT Japan猪谷氏に聞く技能実習生事情」シリーズ第4弾。
今回も「技能実習生の帰国後」について伺いました。
後半には、日本国内で失踪した後についての事例についてもお話を伺っております。

帰国後の成功事例

取材者

前回に引き続き、技能実習を終えて帰国した後の成功事例について教えて下さい。

猪谷氏

とてもいい事例だなぁと思う一つが、日本で技能実習していた時の実習先企業が、ベトナムに工場を立ち上げるということで、社長が実習生の働きぶりを見込んでベトナム工場の工場長にしたという事例です。
ベトナムはまだまだ産業が限られてる(特に田舎)ので、日本で技術を習得して帰国してもそれを生かせる就職先がないという課題があります。
新たに立ち上げて産業を生み出してくれるなら、ベトナムにとってもいい話ですし、実習生の技術をベトナムで生かすという本来の技能実習制度の目的も果たされます。
ただし、このような事例は指で数えられるほどしかないのが実情です。

帰国後の課題

取材者

お話してくれたような成功事例が少ないのは、どういった事が原因なのでしょうか。

猪谷氏

原因の一つとして、日本で実習生として滞在してる間にさせてもらってる仕事の一部が、スキルアップに繋がっていないという事があります。
例えば溶接などの機械加工などは、それなりの技術の習得に繋がりますが、パン工場でパンを焼いてましたとか、食品加工の会社で魚のすり身を作ってましたとかだと、ベトナム国内でも賃金の低い仕事になってしまいます。
せっかく技術を身につけるために日本まで行って、帰国してもスキルがなくて安い賃金で働くのでしたら行った意味があまりなくなってしまいます。
日本語をきちんと身につけた実習生は、その語学力を生かして日系企業で働くという選択肢も生まれますが、そのためには最低N3(※)は必要です。
しかし、今N3をとっている実習生は、恐らく全体の10%以下だと思います。

※国際交流基金と日本国際教育支援協会が主催する日本語能力試験です。

帰国後の失敗事例

取材者

技能実習生の帰国後の、代表的な失敗事例を教えて下さい。

猪谷氏

よくある失敗の一つが、地元でカフェを開いてすぐに潰れてしまうという事例です。
飲食経験ゼロで、人通りのあまりない自宅で開業するという人も少なくなく、当然うまくいかないわけでして…。
さらには、親戚が技能実習で貯めたお金をもとに、カフェなどの飲食店を立ち上げようと誘ってくるケースも多くあります。
ベトナムは家族の繋がりがとても強く、幼少期にお世話になった親戚には逆らえないという部分もあり、そのままの話の流れで飲食店をスタートする事になったりします。
しかし、さらに酷いケースになると、開業のための内装費用を渡してそのまま親戚が持ち逃げしてしまうという事例もあったりします。

帰国前にも失敗がある

取材者

今回は帰国後についてでしたが、帰国前にも失敗したりするケースがあるのでしょうか。

猪谷氏

日本での実習期間中に大きな借金を抱えた事例があります。
例えば、日本に来て2年間も働いているのに100万も借金ができたという事例です。
借金の原因は博打です。
ベトナム人が博打好きというのもありますが、実習生は25歳以下の社会人経験がない人たちが多く、そのような人たちは信用できる家族などのコミュニティでしか過ごしたことしかありません。日本に来て心細く過ごしている時に、飲み会を開いてくれたり、携帯電話の契約の仕方を教えてくれたりする人たちがいます。
その人たちは、そうやって信頼関係を強め、ある時博打へ誘い出し、莫大な借金を背負わされたりするのです。
日本国内のベトナム人は60万人もいますので、日本国内でベトナム人相手に商売している人たちも存在します。また、それが失踪者だったりするケースもあります。

失踪者について

取材者

ベトナム人の失踪者が1万人ほどいますが、失踪した人がその後どうしているのかという情報はありますでしょうか。ベトナム人による犯罪もニュースなどで見かけますが、関係していたりはするのでしょうか。

猪谷氏

過去に特殊詐欺の出し子として逮捕されてニュースになっていたこともありました。もしかしたら、逮捕された人は、何で逮捕されたのかわかっていないという可能性もあります。SNSなどで高収入の情報を知り、言われた通りにATMからお金を引き出したら捕まり、法律も背景も知らずに困惑しているかも知れないですね。
失踪者のその後についてよく耳にするのは、茨城などの北関東で農業の手伝いをしているという話です。
農業に従事してくれているのならいいのですが、働き口が見つからずアングラな世界に行ってしまう人もいるようです。
日本で暮らしていくためや、借金をしてたりしたら、悪い人たちの言う事も聞かなければならず、犯罪に手を染めてしまうという可能性があります。
実習先に不満を持ち、SNSなどで知った情報を頼りに失踪したりもしますが、その先の実情は実習生活よりも過酷なようです。
先ほどもお話した通り、日本国内のベトナム人相手に儲けている人もいますし、犯罪グループのトカゲのしっぽ切りのように使われてしまう人もいるようですね。

ベトナム国内の日本語教育事情

次回の「ベトナム在住VIT Japan猪谷氏に聞く技能実習生事情」は、ベトナム国内の日本語教育についてです。授業料についてや裏話などをお伺いしたいと思います!

株式会社VIT Japan 代表取締役
猪谷 太栄  (Inotani Takahide)

大学卒業後、関西の大手私鉄会社に就職。その後、ベンチャー企業支援コンサルタントに転職し、アジアへの進出支援、ビジネスマッチングイベントのプロデュースも行う。2005年、上海起業家登龍門、2007年にホーチミン起業家登龍門をプロデュース。その際、ベトナムの成長可能性を大きく感じ、2010年3月株式会社VIT Japan設立。以来ベトナムにて活動中。