
育成就労制度の施行を前に、監理団体が最も注目すべきポイントのひとつが「書類管理」です。
技能実習制度よりも多くの書類・記録が求められると予想される中、紙やExcelでの管理には限界が見え始めています。
この記事では、制度導入後に想定される書類の増加要因と、DX(デジタルトランスフォーメーション)で解決できる実務改善策を整理しました。
制度導入で書類が増える理由
育成就労制度の本質は「教育と評価」
育成就労制度では、外国人材を単なる労働力として受け入れるのではなく、教育・育成の成果を可視化する制度として設計されています。
そのため、受入企業や監理団体は「育成就労計画」「技能・日本語の評価記録」「OJT・Off-JT実施報告」など、これまで以上に詳細な文書管理が必要になります。
書類の性質が「報告」から「証跡」に変わる
技能実習時代の書類は、行政や監理団体への“報告”が目的でした。
しかし育成就労制度では、「教育を適切に行った証拠」として、一人ひとりの学習・就労記録を残すことが義務化される見込みです。
つまり、書類管理は「行政対応」から「監査・認定対応」へと性格が変化します。
関与機関が増えることでフローが複雑化
監理団体(新:監理支援機関)だけでなく、受入企業・外国人本人・教育機関・行政機関など、複数の関係者が関与するため、書類の作成・共有・承認の流れが複雑化します。
紙書類のやりとりでは、バージョン管理や更新漏れが頻発しやすい状況です。
アナログ管理の課題とリスク
紙とExcel管理は限界に
これまで多くの監理団体が、書類を紙またはExcelで管理してきました。
しかしこの方法では、ファイル更新の手間や重複入力、担当者ごとの属人化が避けられません。
特に、複数企業・複数国籍の外国人材を扱う場合、情報の一元化が難しく、確認や修正に時間がかかります。
誤記・更新漏れが監査リスクに直結
育成就労制度では、教育・評価・面談などの記録を行政が監査・確認することが想定されています。
もし書類に誤記・漏れ・紛失があれば、「適正な運用をしていない」と判断されるリスクがあります。
アナログ管理のままでは、制度開始後の監査・認定審査に対応しきれなくなる可能性が高いでしょう。
担当者依存と引き継ぎの難しさ
紙ベースや個人フォルダでの管理は、担当者が異動・退職した際に情報が引き継がれず、運用が滞る原因になります。
組織的に運営する監理団体にとって、属人的な管理は最大のリスクです。
DXで解決できる書類業務3選
① 育成計画・評価記録の自動生成
育成就労計画や評価記録などの定型書類は、フォーマットが決まっており、入力項目も類似しています。
専用システムを導入することで、登録データから自動生成が可能になります。
これにより、作成時間の短縮だけでなく、入力ミスの削減・統一フォーマット化が実現します。
② 提出・承認フローの可視化
クラウド型の管理システムを使えば、提出状況・承認ステータスをリアルタイムで確認できます。
紙やメールでは追跡が困難だった「誰がどこまで完了したか」を明確にでき、管理者のチェック負担を大幅に減らせます。
監査時にも「電子証跡」が残るため、法令遵守の証明にも有効です。
③ 期限管理と通知の自動化
申請・更新・報告など、育成就労制度では期限付き業務が多数発生します。
DXによる期限アラートや自動リマインダー機能を活用すれば、提出遅れや更新漏れを防止できます。
これにより、担当者の経験差に左右されない安定した運用が可能になります。
監理団体が今準備すべき5つのステップ
ステップ1:現状の書類業務を棚卸しする
まず、現在どのような書類をどの形式で管理しているかを整理しましょう。
技能実習関連の台帳・申請書・報告書を洗い出し、育成就労制度に引き継ぐものと廃止するものを仕分けます。
ステップ2:重複入力・転記の発生箇所を特定する
同じ情報を複数書類に転記している箇所は、DX化の効果が出やすい部分です。
どのデータを一元化すれば入力負担が減るかを分析します。
ステップ3:クラウド管理を想定した運用ルールを作る
紙書類からクラウドに移行する際には、「誰が入力・承認・閲覧できるか」という権限設計が重要です。
セキュリティやアクセスログを考慮した運用ルールを策定しましょう。
ステップ4:システム導入に向けた要件をまとめる
育成就労制度対応システムを導入する前に、自団体に必要な機能を明確化しておきましょう。
「帳票自動生成」「電子署名」「多言語対応」など、将来的な拡張性も考慮した要件定義が重要です。
ステップ5:試験運用と職員研修を行う
いきなり全社導入せず、まずは一部業務で試験的にシステムを運用してみるのが効果的です。
職員が操作に慣れ、現場で課題が洗い出された段階で本格導入することで、スムーズな移行が可能になります。
まとめ
育成就労制度の開始により、監理団体の書類業務は「量」と「質」の両面で大きく変化します。
紙やExcel中心の管理では、今後の法令遵守や監査に対応しきれません。
今のうちからDX化の準備を進めることで、
効率化・透明性・ガバナンス強化を同時に実現できる組織体制を構築できます。
制度施行は目前です。
「まだ時間がある」と思っている今こそ、書類管理の見直しを始める絶好のタイミングです。
(※本記事は2025年段階の公表資料に基づく解説であり、今後の法令・運用要領の改定によって内容が変更される可能性があります。)
📚 出典一覧(情報ソース)
【公的資料・一次情報】
- 法務省 出入国在留管理庁(ISA)
- 「育成就労制度の創設及び特定技能制度の見直しに係る関係法律の公布について」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001438443.pdf
(※改正入管法により新設された育成就労制度の概要、施行方針、在留資格の変更内容などを公表) - 法務省 出入国在留管理庁
- 「育成就労制度の骨格について(有識者会議 最終報告書)」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001437136.pdf
(※制度設計の基本理念、監理団体・受入機関・教育機関の役割整理を明示) - 厚生労働省
- 「育成就労制度に関する検討会報告資料(2024年3月)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001301676.pdf
(※技能実習制度からの移行に伴う教育・評価・書類管理の考え方を整理) - 内閣官房 デジタル行財政改革会議
- 「行政手続のデジタル化に関する方針」(2024年)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitalkaigi/
(※政府全体での電子申請化・業務DX方針を提示)
【専門メディア・業界関連】
- マイナビグローバル(Global Saponet)
- 「育成就労制度とは?在留資格・技能実習との違い・開始時期を徹底解説」
https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/visa/18276
(※監理団体が抱える実務課題や書類業務の変化を解説) - 明光グローバル(Meiko Global)
- 「育成就労制度の課題と懸念点」
https://meikoglobal.jp/magazine/problems-with-fostered-work-system/
(※監理団体業務や電子化対応の必要性を紹介) - 外国人技能実習機構(OTIT/IMM)
- 「育成就労制度に関する法改正の成立について」
https://imm.or.jp/cms/jp_news/20240704notice1/
(※法改正成立と今後の運用スケジュールについて公表) - 日本経済新聞/日経クロステック(行政DX関連記事)
- 「行政の電子申請・文書管理のデジタル化動向」(2024年)
https://xtech.nikkei.com/
(※公的機関や監理団体の業務効率化事例を紹介) - NBC協同組合連合会
- 「育成就労制度の骨子案が公表されました」
https://www.nbc.or.jp/blog/20231214_6777/
(※監理団体に求められる体制整備や書類業務の方向性を説明)


