「ベトナム在住VIT Japan猪谷氏に聞く技能実習生事情」シリーズ第3弾。

今回は「技能実習生の帰国後」について伺いました。

帰国後に多いのは

取材者

技能実習生は帰国したらどのような職業についていらっしゃいますか?帰国後について教えてください。

猪谷氏

技能実習制度というのは、日本で技術を習得して母国でその技術を生かすという目的で作られた制度ではありますが、実際にはそのように働かられる方は1%にも満たないのが現実です。

と言いますのも、そもそも特殊な技能を習得できる仕事をさせてもらえていないというケースと、習得した技術を使う産業が地元にないといったケースの2つの問題があります。技能実習生の大半は、帰国後に地元に帰ります。

そして、3ヶ月~半年ほど家でゆっくり過ごします。

それからいざ働こうとしても、例えば「食品加工会社でお弁当詰めてただけ」とかのお仕事ですと、とても高度なスキルとは言えず、ベトナムでもパートさんがする仕事だったりします。

日本で金属加工などの特殊技術を習得している場合を除いては、単純作業のような仕事をさせられてるケースも多いため、帰国後の就職に生かせるスキルとは言えないのが現状です。さらに、田舎の方になりますと、そもそも産業が少ないという事もあり、就職口そのものが少ないという問題があります。

そして、田舎を離れてホーチミンやハノイなどの都会で働こうとする人もいます。

そういう人たちは、多少は得た業務経験と習得した片言の日本語を生かして日系企業で働こうとします。日系飲食店等日本人対応が必要な職種など比較的採用もあるので、応募する人も多いのですが、今度はそこで日本へ留学して帰国してきた学生たちと職場の取り合いみたいな形になります。

日本へ留学していた学生たちは、日本に滞在中に飲食店でアルバイトしていた経験を持ち合わせているケースも多く、すごい人だとアルバイトのシフト作成の経験があったり、正社員の経験を持ち合わせていたりします。

となると、飲食店で働いた経験を持ち合わせない帰国後の技能実習生たちは、そこで留学生に負けてしまい、賃金の高い“日系”の飲食店に就くことが難しくなってしまいます。

そうとなるとローカルの飲食店や一般企業で働いたりするのですが、そうなると技能実習の経験は日本語含め何も生かされることはありません。

帰国後の成功事例と失敗事例

取材者

技能実習生が帰国した後に、成功した事例と失敗した事例を教えて下さい。

猪谷氏

2010年頃まではとても優秀な人が技能実習生として日本へ渡っておりました。

例えばですが、日本で金属加工の技術を習得してベトナムに帰り、ベトナムで金属加工の会社を立ち上げてうまくいった例があります。

他にも帰国後に会計事務所で働いて、そのまま事務所の所長になったという人もいました。

ただ、年々技能実習生として日本へ送り出される人のレベルは下がってきておりますので、現在は例にあげたような優秀な人はほとんどいないかも知れません。例えば、技能実習で貯めたお金で車を買って、配車アプリのドライバーとして稼いでる人は、今では成功事例と言える方になります。

失敗事例の方になりますと、これは本人だけの問題ではないのですが、技能実習で働いたお金が帰国後に全てなくなっていたということもあります。

家族が先に使ってしまってたケースですね。

誰かが病院にかかってとか、兄弟の学費のためとかならまだわかるのですが、日々の遊興費や新しいiPhoneを買ったらなくなってた…など、浪費に使われるケースも少なくありません。

以前ですと、物価の違いもあり、帰国後に家を建てるケースもありました。

「技能実習御殿」なんて言われてたくらいですからね。

今は酷いケースですと、兄が博打で大きな借金を作ってしまい、その返済に充てられてたケースなんかも見ました。ベトナムには博打好きが多いですからね。

ベトナムは稼いだお金は一族のために使うという文化が根強いですから、苦労して技能実習生として働いたお金の半分も自分に使えないケースが多いんです。

だから、家族を信用していない人なんかは、帰国まで現金で自分の銀行口座に貯めておいて、帰国と同時に持ち帰るという人もいます。

他の事例ですと、以前ベトナム国内で日本語が書いてあるカフェを見つけたので入ってみたら、片言の日本語を話してくれる方がお店を切り盛りされてました。

お話を聞くと、日本で技能実習生として働いて帰国したと言っておりました。

カフェにお客さんは全然入っていない状況で、数ヶ月後に行ったらそのカフェはなくなってしまってました。

せっかく技能実習生として働いて貯めたお金を、カフェの内装工事などに使ってしまって全て使い果たしてしまった事例ですね。

国は、基本的に帰国後の支援はしておりません。

良い送り出し機関は、帰国後の就職斡旋を行っていたりするのですが、そもそも条件に合った就職口が少ないので、うまくいっていないのが現状です。

帰国後はカモネギ!?

次回は帰国後のお話の第2弾として、「帰国後は狙われやすい!」といった、騙された事例などを詳しくインタビューしたいと思います。

株式会社VIT Japan 代表取締役
猪谷 太栄  (Inotani Takahide)

大学卒業後、関西の大手私鉄会社に就職。その後、ベンチャー企業支援コンサルタントに転職し、アジアへの進出支援、ビジネスマッチングイベントのプロデュースも行う。2005年、上海起業家登龍門、2007年にホーチミン起業家登龍門をプロデュース。その際、ベトナムの成長可能性を大きく感じ、2010年3月株式会社VIT Japan設立。以来ベトナムにて活動中。