前回から始まりました「ベトナム在住VIT Japan猪谷氏に聞く技能実習生事情」シリーズ。
今回は第2弾です。引き続き、ベトナムの送り出し機関についてのお話を伺いたいと思います。
日本語教師から聞いた実情
直近でハノイの日本語教師の方とお話される機会があったとのことですが、日本へ送り出す前半年間の日本語教育について、最近の事情を教えて下さい。
驚いたことに、一部の生徒に対しては日本語を教えることを諦めるといった事態が起きていると聞きました。
と言いますのも、建設や介護などの不人気職種につきましては、まずもってリクルーティングがかなり大変な状況となっております。
そんな中で集まった人々の中には、日本語教育どころではない方々もいらっしゃいます。学校のクラスでいうところの下位層にあたる人です。
そんな人に半年間日本語を教えたところで、N5(※日本語能力試験)なんて夢のまた夢なわけで…。
じゃあそういう人たちにはどういった教育が行われているかというと、一つが「絶対職場で使う単語を覚えさせる」と言ったことです。
例えば、「おはようございます」とか「おつかれさまです」とかですね。
そしてもう一つがなんと、「体力づくり」なんです。
なんでかと言うと、建設関係となると体力が必要であり、日本語がわからなくても体力があると重宝されるからです。
一日の半分を体力づくりに費やしてるクラスもあって、腕立てジャンプなんかもできたりするそうです(笑)
例えば、コミュニケーションはイマイチなんだけど、重い荷物運ばせたら早い!なんて人は、現場では可愛がられたりもします。
そうすると雇う側にも雇われる側にもメリットが生まれるので、全然覚えられない日本語勉強をずっとさせるより、みんなが幸せになれる可能性が高いんです。
だから、所謂クラスでも最下位レベルの勉強能力の人たちには、体力づくりをさせているという実態があるようです。
不人気職種のリクルーティングの実態
先にも述べてらっしゃったように、不人気職種のリクルーティングはなかなか難しいといった実態があるようですが、そんな中でどのような形で人探しをしているのでしょうか?
リクルーティング活動には、かなりのお金が動いているのが実態です。
よく送り出し機関が実習生から莫大な手数料を取ってるという話を耳にしたりすると思いますが、最近ではエージェントが手数料をとっていて、それもエージェント①→エージェント②→エージェント③といったように数人のエージェントが連携してリクルーティングを行っていたりします。
例えば、エージェント②が学校の校長、エージェント③が担任の先生だったりするケースもあります。
クラスの担任が色々な理由をつけて生徒に日本で働いてくることを勧め、送り出し機関に繋ぐ事が出来たら、間に入っているエージェント①、エージェント②(校長)、エージェント③(担任の先生)にそれぞれ500ドルずつ紹介料として支払われるという流れです。
その手数料(合計1,500ドル)は、その生徒の親が頑張って用意したお金です。
送り出し機関への支払いは4,000~5,000ドルほどですが、結局エージェント費用もそこに上乗せされるため、金額が大きくなってしまっています。
しかし、ハノイでは、それだけエージェントを使ってもリクルーティングできなくなってきています。
北部ではもう人を探すのは難しいため、ダナン方面の中部地域などから大型バス、メコンデルタ地域など南部から列車などを使ってハノイに人を呼んで面接を行っていたりする送り出し機関もあり、大半が北部以外の出身の候補者で、何のために北部で面接してるんだっけ?となるような時もあります。
さらには、エージェントが日本語学校を運営しているというケースもあり、その場合、出国前6ヶ月間の日本語学習は、そのエージェントである日本語学校で行うことになります。
送り出し機関単体では人を集められないので、送り出し機関は日本語学校の教育の質が悪くても何も言うことができないという状況です。
そして、日本語の習得が全然できていない人を送るといった事態が起きてくるわけです。
最近では、ハノイの送り出し機関から送られてくる人の質があまりにも悪いから、中部や南部にある送り出し機関と繋がりたいと言う企業さんも出てきております。
実際にあった話で、質が悪い人というのは仕事中にサボって毎日のように寝ているといった事があり、何度注意しても直らないといったケースがありました。
そうなると、企業側も何のために来てもらってるのかわからなくなってしまいます。
企業が気をつけること
最後に、企業が送り出し機関選びで気を付けた方がいいことは何ですか?
ベトナムの接待に慣れていない企業さんですと、ベトナムに来られた際の接待の凄さに驚かれる方も少なくありません。ベンツのマイバッハでお出迎えされ、レッドカーペットの上を歩いて大臣気分で面接会場に行く事もあります。
多くの送り出し機関は、営業活動にばかり熱心です。
自力でのリクルーティング活動は行わず全てエージェント任せで、監理団体や企業への売り込みにばかり力をいれております。
営業自体は必要なことですが、大切なのは送り出す人の「質」です。
過剰な接待を受けて気を良くして、送り出し期間前の教育を疎かにしている送り出し機関と契約するのは本末転倒です。
最近はしっかりと人選してる監理団体ですと、SPIテストに出てくるような計算問題などの試験を実施しているところもあります。発展途上国では学力レベルと仕事能力は正比例することが多く、送り出し機関担当者の推薦のように裏でどんな取引が行われてるか分からないような人選よりも、遥かに客観的な人選ができるからです。
トラブルに遭わないためにも、過剰な接待をしてくるような送り出し機関でしたら、一度立ち止まってみることをオススメします。
ありがとうございました。
次回は、技能実習生の帰国後についてお届けしたいと思います。
株式会社VIT Japan 代表取締役
猪谷 太栄 氏 (Inotani Takahide)
大学卒業後、関西の大手私鉄会社に就職。その後、ベンチャー企業支援コンサルタントに転職し、アジアへの進出支援、ビジネスマッチングイベントのプロデュースも行う。2005年、上海起業家登龍門、2007年にホーチミン起業家登龍門をプロデュース。その際、ベトナムの成長可能性を大きく感じ、2010年3月株式会社VIT Japan設立。以来ベトナムにて活動中。