
制度の法案提出スケジュールと現状
最新タイムライン(2024〜2026の要点整理)
「育成就労制度」は、従来の技能実習制度からの転換を目的とし、施行に向けた法改正・運用整備が進行中です。2024 年6月14日には関連法改正案が国会で可決・成立しました。
その後、2025年には「基本方針」「分野別運用方針」、監理団体・受入機関の体制整備指針などが順次公表される見込みで、実施は令和6 年6 月21日公布の改正法による「政令で定める日以降」とされており、施行日が確定していないものの、2026-2027年あたりのスタートを想定する必要があります。
国会提出・審議で注目すべき論点
監理団体にとって注目すべき論点は以下です。
- 在留期間の上限(現行の技能実習では最長5年ですが、育成就労制度では原則3年以内とされています)
- 対象分野・職種の見直し(技能実習で認められていた職種が、対象から除外される可能性)
- 監理団体(新制度では「監理支援機関」など名称改定も検討)や受入機関の許可・認定制度の強化
- 転籍・在留変更手続き・評価制度の設計(技能・日本語能力の到達目標の明確化)
施行までのロードマップ(政省令・運用要領の公開時期想定)
監理団体として準備しておくべきロードマップは次の通りです。
- 法律・改正案の成立(済)
- 基本方針・分野別運用方針の公表(2025年中)
- 政令・省令・運用要領・書式(書類テンプレート等)の公表(2025~2026年)
- 監理支援機関・受入機関の認定・許可開始
- 制度開始(2026〜2027年想定)
この段階ごとに、監理団体として「体制整備」「書類ひな形準備」「システム対応検討」を段階的に進めることが重要です。
経過措置と移行期間の考え方(技能実習→育成就労)
技能実習制度から育成就労制度への移行にあたって、既に技能実習制度を運用している監理団体・受入機関では、「移行期間」や「経過措置」が設定される可能性があります。例えば技能実習生から育成就労への転換スキーム、既存契約の継続などが想定されます。監理団体としては、技能実習制度の運用記録を整理し、育成就労制度開始時にスムーズに対応できる準備をしておく必要があります。
監理団体が四半期ごとに決めるべき意思決定ポイント
監理団体が今から四半期ごとにチェックすべきポイントとして、以下を推奨します。
- 改正法・運用要領の動向確認(社内共有)
- 自組織の管理体制・人員計画の見直しスケジュール設定
- 書類作成・システム化の検討(ベンダー接触、機能要件整理)
- 受入企業との契約/説明会開催計画
- リスクシナリオ(施行先送り、対象範囲縮小等)に備えた対応策検討
政府発表に見る制度の方向性
目的の転換(「国際貢献」から「人材育成」へ)
育成就労制度の大きな特徴は、制度目的が「我が国の人手不足分野における人材確保・育成」に明確に移行している点です。従来の技能実習制度では、発展途上国への技能移転や国際貢献が前提とされていました。育成就労制度では、日本国内の受入れ企業・産業のニーズを起点とし、外国人材が「特定技能1号水準」の技能を身に着けた上で活躍するキャリアパスを描く仕組みとなっています。
転籍・賃金・職種運用の方向性(骨格ベースの理解)
政府資料によれば、育成就労制度では以下のような方向性が示されています。
- 在留資格期間は原則3年以内。
- 一定の技能・日本語能力を有する外国人が、転籍を本人の希望の下で可能とする制度設計。
- 対象職種・産業分野を「育成就労産業分野」として限定し、各分野ごとに受入れ上限設定の可能性。
認定・監督強化と評価仕組み(ペナルティ/改善命令の観点)
監理支援機関(旧・監理団体)に対しては、許可制・認定制の導入が予定されており、運用管理、業務体制、教育・監査記録といった体制強化が求められています。また、受入れ企業・実施機関には「育成就労計画」の作成・認定義務があり、技能・日本語能力の到達状況を把握する評価仕組みが組み込まれています。
人材育成計画と評価(OJT/Off-JT・達成指標の持たせ方)
新制度では、外国人材一人ひとりに対して「育成就労計画」を作成し、技能・日本語・業務内容等の目標を明確化することが求められます。監理団体としては、受入れ企業支援において、この計画策定支援、評価記録・フォローアップが関わる重要な業務になるでしょう。
デジタル化の方針(電子申請・標準様式・API連携の可能性)
政府資料では、今後の制度運用にあたって、電子申請・運用データの標準化・システム化が想定されています。監理団体にとっては、「書類作成からデータ管理、モニタリング・報告」の流れをデジタルで効率化する準備が、早期導入の切り札となるでしょう。
監理団体に求められる体制整備
ガバナンス再設計(理事会報告項目・内規改定の観点)
制度の移行にあたって、監理団体ではまずガバナンス体制をレビューする必要があります。理事会/監査役会報告項目に「育成就労制度対応準備状況」「監理支援機関認定取得状況」「受入企業数・育成計画実績」などを追加し、内規・運用マニュアルの見直しを早めに進めることが望まれます。
コンプライアンス/内部監査の強化(定期点検と是正ループ)
監理支援機関になるには、受入企業・外国人材の人権保護・労働条件・転籍管理などにおいて、より厳格な監督責任が課せられる見込みです。定期的な内部監査や是正記録の管理体制を整えることでリスク軽減が可能です。
人員体制と教育計画(配置・資格・研修カリキュラム)
新制度下では、「育成就労計画の支援」「教育・モニタリング記録」「外国人材のフォローアップ」が監理団体の主な業務になるため、人員を再配置し、監理支援機関として必要な研修(制度理解/外国人材支援スキル)を策定する必要があります。
受入企業支援の標準オペレーション(SOP/マニュアル整備)
受入企業に対する説明会・契約書チェック・育成計画ひな形・進捗報告書・転籍フォロー・定期面談チェックなど、**受入機関支援のための標準オペレーション(SOP)**を整備しておくことが、品質確保と差別化になります。
相談・苦情受付/記録・エスカレーションのルール化
外国人材対応では「生活・相談支援」「苦情の受付・対応」がますます重要になります。監理・支援体制の中に、相談窓口設置、記録管理、エスカレーション手順、定期フォローアップを明文化しておくことが望まれます。
情報セキュリティ/個人情報保護(アクセス権限・ログ管理)
個人情報や在留資格情報が電子化・ネットワーク化される流れにあるため、アクセス管理・ログ記録・クラウドサービスの選定・BCP(事業継続計画)を含めたセキュリティ体制を整えておく必要があります。
業務KPIの設計(不備率・処理時間・満足度・監査指摘件数)
移行期に監理支援機関として成果を可視化するため、次のようなKPIを設けると有効です。
- 書類不備率/申請再提出率
- 処理時間(受入申請→認定まで)
- 受入企業・外国人材の満足度調査
- 監査指摘件数と是正率
外部ベンダー選定とRFP準備(要件定義・評価基準・PoC)
書類作成・育成計画・進捗管理・モニタリングを支援するシステムの導入を検討するなら、RFP(要件定義書)を早期に作成し、複数ベンダーとの比較検討、PoC(概念実証)実施に備えておくことが成功への鍵です。
今後予想される書類・申請対応の変化
申請〜認定〜運用〜監査までの全体フロー(俯瞰図)
育成就労制度における申請・運用・監査の流れは、以下のように整理できます。
- 受入機関/監理支援機関(監理団体)による育成就労計画の策定・申請
- 認定機関(例えば 外国人材育成就労機構)による認定・許可
- 外国人材の受入れ・育成実施(3年以内)
- 定期的な進捗報告・技能・日本語能力の評価
- 終了時または転籍時の報告・記録の提出
- 監査・指導・改善命令の実施
監理団体はこの流れを俯瞰して、それぞれのステージで必要となる書類・記録・データ管理のチェックリストを整備しておきましょう。
主要書類の新旧マッピング(例:計画書→育成計画、報告→評価記録)
例えば、技能実習制度で使用されていた「技能実習計画」「実習実施計画」「実習報告書」などは、育成就労制度では「育成就労計画」「育成進捗報告」「技能・日本語評価記録」などに置き換わる可能性があります。政府資料でも「育成就労計画を認定制とする」ことが示されています。監理団体は現状の書類テンプレート・運用フローを見直し、「次制度に備えたひな形(草案)」を早めに準備することをお勧めします。
監理団体が保持・提出すべき記録(台帳・面談記録・教育履歴)
制度運用開始後、監理支援機関として次のような記録を確実に保持・管理できる体制が要求されると予想されます。
- 外国人材1人ごとの育成就労計画・教育実績・技能・日本語能力の達成記録
- 受入企業側の教育実施記録・面談記録・苦情・転籍希望対応記録
- 監理支援機関内部の支援実績台帳・定期報告提出記録・監査記録
これらを電子化・検索可能・証跡化することで、監督行政からの指摘リスクを大きく低減できます。
電子申請/電子署名/タイムスタンプの実務ポイント
制度改革の流れを見据えると、書類作成・申請手続きが電子化される可能性が高いです。例えば、育成就労計画の申請・承認・更新がオンライン化・電子署名・タイムスタンプ付きで行われることが想定されます。監理団体としては、クラウド型システムを導入するか、既存システムの改修を早めに検討することが望ましいです。
転籍・在留変更・更新に伴う手続きと必要証憑
制度上、外国人材が一定条件を満たせば転籍が可能になる方向で検討されています。監理団体は、転籍希望が出た際に想定される申請フロー・必要書類・企業間契約変更・報告義務などをあらかじめ整理・規定化しておくと安心です。
多言語対応と真正性確認(翻訳証明・原本照合・偽造防止)
外国人材の受入れ・育成において、母国書類・日本語以外の書類を扱うケースが想定されます。育成制度では、送出国・受入れ国間の協定・手数料適正化の仕組みも設けられており、書類真正性・翻訳・原本照合対応がより強化される見込みです。
内部チェックリストとWフロー(起案・承認・監査証跡)
監理団体では、書類の起案/承認/実施/監査という流れにおいてWチェック(二重チェック)体制を標準化し、証跡(ログ)を残すことが監査対応上有利です。特に育成就労制度では、外国人材のスキル・能力・生活支援という側面が強まるため、チェック項目を設定し、責任者を明確化しておくことが重要です。
システム化で自動化しやすい領域(帳票自動生成・期限管理・監査ログ)
最後に、システム導入を検討する監理団体向けに、自動化しやすい業務領域を整理します:
- 育成就労計画・報告書などの帳票自動生成
- 外国人材・受入企業ごとの進捗管理・期限アラート通知
- 書類提出・承認状況・監査指摘事項のダッシュボード化
- ログ管理・アクセス権限設定・監査証跡管理
- 多言語インターフェース・クラウド連携
これらを早期に検討・導入することで、制度開始時点から優位にスタートできます。
まとめ
2025年時点で「育成就労制度」はまだ運用開始前ではあるものの、改正法の成立・基本方針の公表・施行に向けた準備期間が動き始めています。監理団体としては、次の段階から遅れを取らないよう、早めの体制整備・書類・システム準備が求められます。
特に「育成就労計画」「転籍・在留変更」「モニタリング・報告」「デジタル管理」の観点は、今後の実務での差になるでしょう。
今こそ、制度開始前の“準備が価値になる時期”です。監理団体の皆様には、ぜひ今のうちから動き出すことを強くお勧めします。
(※本記事は2025年段階の公表資料に基づく解説であり、今後の法令・運用要領の改定によって内容が変更される可能性があります。)
📚 出典一覧(情報ソース)
【法制度・公的資料】
- 出入国在留管理庁(法務省)
- 「育成就労制度の創設及び特定技能制度の見直しに係る関係法律の公布について」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001438443.pdf
- 「育成就労制度の骨格について」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001437136.pdf - 厚生労働省
- 「育成就労制度に関する検討会報告資料(2024年3月)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001301676.pdf - 外国人技能実習機構(OTIT)/国際人材協力機構(旧:外国人技能実習機構 IMM)
- 「育成就労制度に関する法改正の成立について」
https://imm.or.jp/cms/jp_news/20240704notice1/ - 日本国政府官報/法務省プレスリリース(令和6年6月21日公布)
- 「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律(育成就労制度創設関係)」
【業界・専門メディア】
- マイナビグローバル Global Saponet
- 「育成就労制度とは?在留資格・技能実習との違い・開始時期を徹底解説」
https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/visa/18276 - 明光グローバル(Meiko Global)
- 「育成就労制度の課題と懸念点」
https://meikoglobal.jp/magazine/problems-with-fostered-work-system/ - NBC協同組合連合会(外国人材受入関連情報)
- 「育成就労制度の骨子案が公表されました」
https://www.nbc.or.jp/blog/20231214_6777/
【補足・参照として引用可(時事・制度動向)】
- 法務省 出入国在留管理庁「外国人材受入れに関する有識者会議 最終報告書」(2024年3月)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001437135.pdf - 内閣官房 デジタル行財政改革会議「行政手続のデジタル化方針」(2024年)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitalkaigi/


