
はじめに|育成就労制度と転籍の関係
なぜ転籍の仕組みが必要なのか
育成就労制度は、外国人が日本で3年間働きながら技能を習得し、その後「特定技能」へ円滑に移行できるよう設計されています。ところが、受入れ企業の経営事情や本人の希望により、働く環境が変わるケースは少なくありません。そのため、制度上「転籍(受入れ先の変更)」という仕組みが用意されており、外国人労働者のキャリア形成を継続的に支える仕組みとなっています。
技能実習制度との違い
これまでの技能実習制度では、転籍は極めて制限されており、労働者本人の意思が反映されにくい仕組みでした。一方、育成就労制度では、一定の条件を満たせば転籍が認められるようになっています。これにより、外国人労働者の権利保護が強化され、働きやすい職場環境を選びやすくなったのです。
育成就労制度における転籍の条件
本人の希望による転籍の可否
育成就労制度では、外国人労働者本人の意思が尊重されます。たとえば「よりよい労働環境を求めたい」「キャリアアップを見据えて別の企業で経験を積みたい」といった希望があれば、一定の手続きを経て転籍が可能です。技能実習制度では困難だった自己都合での転籍が、新制度では柔軟に認められる方向に改善されています。
受入れ企業側の事情(倒産・契約終了など)
受入れ企業の経営悪化による倒産や事業縮小、契約満了など、外国人労働者に責任のない理由で雇用を続けられない場合も、転籍の対象となります。こうしたケースでは、労働者が不利益を被らないよう、新たな受入れ先を探す支援が監理団体や監理支援機関に求められます。
転籍が認められないケース
一方で、転籍が無制限に認められるわけではありません。たとえば、受入れ企業との契約違反や重大な勤務態度不良があった場合には、本人の希望であっても転籍が難しいケースがあります。また、短期間での度重なる転籍も、技能習得や制度運営の観点から制限される可能性があります。
転籍手続きの流れ
本人からの申出と必要書類
転籍を希望する場合、まずは外国人本人が受入れ企業や監理団体に対して申出を行います。その際には、転籍希望理由や現在の勤務状況を記載した申出書が必要となる場合があります。あわせて、在留カードの写しや雇用契約関連書類など、本人の在留資格や雇用状況を確認できる資料を提出することが基本となります。
監理団体・監理支援機関の役割
本人から転籍希望が出された後は、監理団体や監理支援機関が中心となって新しい受入れ先の調整を行います。転籍先の候補となる企業に対しては、適切な職場環境を提供できるかどうかを審査し、必要な支援体制が整っているかを確認します。また、転籍後の育成就労計画が適正かどうかも重要なチェックポイントです。
行政への届出と審査
転籍には行政機関への届出・認定が必要です。転籍先企業と新たな育成就労計画を作成し、所管官庁へ提出します。その後、書類審査や確認が行われ、問題がなければ転籍が正式に認められます。審査には一定の期間がかかるため、スケジュール管理が非常に重要になります。
転籍時に必要な再認定手続き
育成就労計画の再作成・再認定
転籍を行う際には、新しい受入れ企業に合わせた 育成就労計画の再作成 が必要です。もとの計画は転籍前の業務や教育体制に基づいているため、転籍後の業務内容や育成環境に応じて修正し、再度認定を受けなければなりません。これは、外国人労働者が計画的に技能を習得し続けられるようにするための仕組みです。
転籍先企業での教育・支援体制の確認
再認定にあたっては、転籍先企業が外国人労働者に対して適切な教育・指導を行えるかどうかも審査されます。具体的には、日本語教育や生活支援の体制が整っているか、また技能習得の機会が十分に提供されるかがチェックされます。これにより、受け入れ環境が本人にとって不利にならないよう配慮されるのです。
認定が下りるまでの留意点
転籍の申出をしてから認定が下りるまでには、一定の時間がかかります。その間、本人の在留資格や労働契約が途切れないよう注意が必要です。認定が下りる前に新しい職場で就労を開始することは原則できないため、スケジュール管理を徹底し、余裕をもった準備が求められます。監理団体・監理支援機関がしっかりとサポートすることで、スムーズな移行が可能になります。
期限管理とトラブル防止策
転籍手続きにかかる期間の目安
転籍の申出から認定が下りるまでには、通常数週間から数か月程度を要します。申請内容の不備や書類不足があれば、さらに時間が延びる可能性もあります。そのため、余裕を持って準備を進めることが重要です。特に在留資格の更新期限と重なる場合は、スケジュールを逆算して手続きを開始する必要があります。
在留資格や評価試験への影響
転籍が遅れると、在留資格の更新や特定技能への移行に影響を与える可能性があります。例えば、認定が下りる前に在留期限が切れてしまうと不法滞在のリスクが生じてしまいます。また、計画に基づく技能習得が遅れれば、評価試験の受験スケジュールにも影響するため注意が必要です。
管理システムによるスケジュール管理の重要性
こうしたトラブルを防ぐには、期限を一元的に管理できる仕組みが欠かせません。クラウド型の管理システムを導入すれば、在留期限や計画更新、転籍申請の進捗などを自動でリマインドでき、担当者の負担を軽減できます。人為的な見落としを防ぐことは、外国人本人の安心と企業の信用を守ることにつながります。
まとめ|転籍手続きを正しく理解し、制度を円滑に運用する
外国人材の権利保護と受入れ企業の責任
育成就労制度における転籍手続きは、単なる企業間の人材移動ではなく、外国人労働者の権利を守り、キャリア形成を継続させるための重要な制度設計です。転籍を適切に行うことで、本人にとって安心できる職場環境を確保し、企業側にとっても信頼される受け入れ体制を築くことができます。
手続きを理解することがトラブル防止につながる
転籍には、申出、監理団体による調整、行政への届出、そして育成就労計画の再認定といった複数のステップがあります。流れを正しく理解し、期限管理を徹底することで、不認定や在留資格切れといった重大なトラブルを未然に防ぐことが可能です。
デジタル管理でリスクを最小化
転籍のプロセスには多くの書類と期限が関わります。クラウド型の管理システムを活用すれば、スケジュールを自動でリマインドし、必要書類を一元管理できるため、担当者の負担を減らしつつ制度対応をスムーズに行えます。デジタル化を取り入れることは、制度を円滑に運用するうえで大きな武器となるでしょう。
※この記事は2025年10月現在の情報をもとに執筆しております。今後、制度が変わる可能性がありますので、最新情報につきましては官庁系のサイトでご確認下さい。
■ 参考・出典リンク集
- 出入国在留管理庁|育成就労制度について(制度概要)
- 出入国在留管理庁|育成就労制度・特定技能制度 Q&A
- 厚生労働省|育成就労制度の概要(PDF資料)
- 国際人材協力機構(JITCO)|育成就労制度の解説ページ
- 一般社団法人JFBFE|育成就労制度の概要と注目ポイント
- 行政書士法人ブリッジツーエヌ|育成就労制度の申請・転籍に関する解説
- 塩永行政書士事務所|育成就労制度に関する許可・転籍関連記事

