
「ベトナム在住VIT Japan猪谷氏に聞く技能実習生事情」シリーズ第11弾。
今回は、ベトナム人の借金に関するお話を伺いました。

よくベトナム人の技能実習生は、母国で多額の借金をして日本に来ているという話を耳にします。技能実習生の借金事情に関するお話を教えて下さい。

まずはベトナム人技能実習生の借金については2種類あります。
1つ目は、実習生が日本に行く前にベトナムでお金を借りる借金についてです。
特に北部を中心に、技能実習生は事前に100万円単位での準備が必要になります。
そのお金を準備できる家は少ないですから、借金をして準備することになります。しかも、その借金の金利は10%を超えます。
なので、かなりのプレッシャーを抱えて日本に来るわけです。
出発が遅れるとそれだけ借金を返す時期が後ろ倒しになりますので、どんどん借金が増えていくんですよね。
だからベトナム人技能実習生は、よく「残業させてくれ」と言うんです。
金利が高いので残業をして、少しでも早めに借金を減らしたいのです。

金利の高さに驚きですね。
確かにその金利だと、雪だるま式に増えてくような印象ですよね。

実は送り出し機関が技能実習生育成だけではなくお金を貸して、それで儲けを得てる部分があります。
金利も高いですし、収益モデルがきちんと確立されているから、ブローカーにも多額のお金を支払えるんですね。
お金を借りる人は、自分の親が所有する田畑を担保にしているケースもあります。
実際にその契約書を見たことがありますが、田畑の一部が担保として入れられていました。
それだけのプレッシャーを背負って技能実習生は日本に来ているわけです。
なので、借金を返し終えた時には、プレッシャーからの解放で腑抜けになってしまい、しばらく勤労意欲が下がる技能実習生も多いのです。
今は技能実習前に用意するお金も70~80万円くらいにはなっていますが、ひと昔前は150万円くらいの用意が必要だった場合もあるようです。

それに金利が10%以上となると、一刻も早く返さなきゃって思うのは当然ですよね。
ベトナム人の借金の種類は2種類あるっておっしゃってましたが、2つ目はどのような借金ですか?

2つ目は、日本に来てから作る借金です。
これは個人的な見解になりますが、少し前に佐賀で大変痛ましい強盗殺人事件がありましたよね。
そこに至る経緯として、日本に来てからの借金があるのではないかと考えております。
実際がどうだったかなどは、これから出てくるとは思いますが、どうしてそのように推察したかと申しますと、犯人の勤務状況などが報道で出てましたが、それなりに残業時間がある会社で実習をしていたようなので、ベトナムでの借金は順調に返していたのではないかと思います。
強盗するほど急に多額のお金が必要になったとなると、日本国内で借金を作った可能性が高く、その返済に困っての犯行ではないかと推察しております。
どうしていきなり多額の借金ができたのかについては、過去のインタビューでもお話しさせていただいた通り、ベトナム人男性は3人集まれば博打が始まると言われているほどの博打好きです。
恐らく博打で多額の借金ができたのではないかと思います。
過去にも、日本のとある大きな都市に技能実習に来た若者が、特殊詐欺の口座名義に使われてた事例がありました。
彼は、日本に来てその都市にある、同郷のコミュニティに入り、そこで博打をして借金が増え、借金の返済のために銀行口座を作らされ、それが特殊詐欺に使われてしまったようです。
他にも、ある日会社に来た実習生がとても暗い顔をしていて、様子をおかしく思った社員が上司に掛け合い、監理団体も交えて面談をしたところ、日本に来て繋がった同郷のコミュニティで博打をし、多額の借金ができたということがわかったという事例がありました。
その実習生は、素直に話したので、犯罪に手を染めずに済みましたが、会社側が気づくことができなかったら、恐ろしい犯罪に手を染めてしまっていた可能性があります。
幸い、実習実施者である企業さんがとても親切で、その借金を会社が一旦肩代わりする形で「もう二度と関わらない」という誓約書をコミュニティ側に書かせることで合意し、事なきを終えることができました。

ベトナム人の借金事情については、本当に奥深いですね。
借金から犯罪に発展するケースが物凄く恐ろしいと思いましたし、それを未然に阻止していくということが大切だと思いました。
今回も貴重なお話、ありがとうございました。
株式会社VIT Japan 代表取締役
猪谷 太栄 氏 (Inotani Takahide)
大学卒業後、関西の大手私鉄会社に就職。その後、ベンチャー企業支援コンサルタントに転職し、アジアへの進出支援、ビジネスマッチングイベントのプロデュースも行う。2005年、上海起業家登龍門、2007年にホーチミン起業家登龍門をプロデュース。その際、ベトナムの成長可能性を大きく感じ、2010年3月株式会社VIT Japan設立。以来ベトナムにて活動中。
