近年、ベトナム経済の成長は目覚ましく、その象徴とも言えるのが国内で進む大規模なインフラ開発です。

現地では「空前の建設ラッシュ」とも呼ばれる状況が続いており、建設業界では深刻な人手不足が発生しています。

今回は、ベトナム国内で進む大型プロジェクトと、それが日本の建設業界に与える影響について、ベトナム在住のVIT Japan猪谷氏に伺いました。

ベトナム全土で進む大型インフラプロジェクト

――最近のベトナム建設業界はどのような状況なのでしょうか?

現在のベトナムでは、過去に例を見ない規模の建設プロジェクトが同時進行しています。

特に注目されているのが、ベトナム最大の民間企業グループであるVingroup(ビングループ)が関与する都市鉄道整備計画です。

ハノイでは総延長約310kmの都市鉄道計画が進められており、2030年までの完成を目標に国家プロジェクトとして推進されています。

さらに、ビングループの関わるプロジェクト以外にも

  • 南北高速鉄道計画
  • ホーチミン市の都市鉄道整備(約200km規模)
  • APEC関連開発プロジェクト
  • 原子力発電所関連の建設計画

など、大型案件が次々と立ち上がっています。

しかし、ここで問題となるのが人材です。

実はベトナム国内の鉄道建設実績は、ハノイ都市鉄道約21km、ホーチミン都市鉄道約19km程度に限られています。

今後予定されている数百km規模の建設計画を担うためには、圧倒的に経験者が不足している状況です。

「15万人募集」でも足りない現場

――現地ではどの程度人手が不足しているのでしょうか?

現地ではVingroupによる15万人規模の採用計画も話題になっています。

ただし、募集人数は多くても、実際に求められているのは経験を持つ熟練人材です。

現地関係者によると、特に男性労働者の確保が非常に難しくなっているとのことでした。

例えばロンアン省では、ある不動産プロジェクトに未経験者でも日給100万ドン(約5,000~6,000円相当)の求人が出ています。

また、APEC関連プロジェクトでは、一般作業員クラスでも月額2,000万ドン以上の待遇が提示されるケースも見られます。

これは一部地域だけの話ではありません。

ベトナム全土で建設人材の奪い合いが起きており、各企業が待遇改善によって人材確保を急いでいる状況です。

月給40万円クラスの求人も登場

こうした背景から、経験者向けの求人では月給40万円前後の募集も見られるようになっています。

もちろん全ての建設作業員が対象ではありません。

しかし、大規模プロジェクトを支える施工管理者や経験工、専門技術者については、これまでとは比較にならない待遇が提示され始めています。

ベトナム国内でこれだけの報酬が得られるようになれば、日本で働くベトナム人材の動向にも変化が生まれる可能性があります。

日本で働くベトナム人は帰国するのか

――日本の建設業界への影響はありますか?

十分にあり得ると思います。

特に懸念されるのが、現在日本で働いている技能実習生や特定技能人材です。

ベトナム人の中には、「日本で100万円稼げてるとして、ホーチミンで50万円稼げるならベトナム帰る。地元で30万円稼げるならそれでも帰る」という価値観を持つ人も少なくありません。

給与額だけではなく、

  • 家族と暮らせる
  • 母国語で生活できる
  • 将来性のある国家プロジェクトに参加できる

という魅力も加わるためです。

特に家族帯同が認められていない特定技能1号などは、今後帰国を選択する人が増える可能性があります。

ベトナム国内の賃金上昇と雇用機会の拡大は、日本企業が想像している以上に大きな変化をもたらすかもしれません。

ベトナム依存からの転換が進む可能性

こうした状況を受け、日本企業の採用戦略も変化していくと考えられます。

これまで建設業界や製造業ではベトナム人材への依存度が高い企業も少なくありませんでした。

しかし今後は、

  • インドネシア
  • バングラデシュ
  • インド
  • ネパール

など、別の国からの採用へシフトする企業が増える可能性があります。

実際に現場では、すでにベトナム以外の国への関心も向けられております。

日本企業に求められるのは「選ばれる職場」

一方で、国を変えれば全て解決するわけではありません。

そもそも建設業や製造業は、ベトナム国内でも若年層から人気職種とは言い難い状況です。

これは日本でも同じ課題を抱えています。

今後の人材確保を考えるのであれば、

  • 給与水準の見直し
  • 労働環境の改善
  • キャリア形成支援
  • 住環境や福利厚生の充実

など、日本人が働きたいと思える職場づくりが必要になるでしょう。

外国人材不足は、単なる採用の問題ではなく、日本企業の経営課題そのものになりつつあります。

現地を見なければ変化はわからない

今回の話で印象的だったのは、「ベトナムの変化は日本で想像している以上に速い」という点です。

現地では新しい工場や道路、鉄道、住宅開発が次々と進み、数年前とはまったく異なる景色が広がっています。

こうした変化を敏感に感じ取っている経営者や投資家は、定期的に現地へ足を運んでいます。

一方で、日本国内の情報だけで判断していると、市場環境の変化を見落としてしまう可能性があります。

ベトナム人材の採用を続ける企業こそ、今後は現地を訪れ、自らの目で変化を確認することが重要なのかもしれません。

まとめ

ベトナム国内では、都市鉄道や高速鉄道、エネルギー関連施設など大規模プロジェクトが相次ぎ、人材需要が急速に拡大しています。

月給40万円クラスの求人や15万人規模の採用計画も登場し、日本で働くベトナム人材の帰国や転職を後押しする可能性があります。

物価高騰や人件費上昇に直面する日本企業にとっては厳しい局面ですが、だからこそ今後は「外国人を採用する企業」から「人材に選ばれる企業」への転換が求められる時代になっていると言えるでしょう。

株式会社VIT Japan 代表取締役
猪谷 太栄  (Inotani Takahide)

大学卒業後、関西の大手私鉄会社に就職。その後、ベンチャー企業支援コンサルタントに転職し、アジアへの進出支援、ビジネスマッチングイベントのプロデュースも行う。2005年、上海起業家登龍門、2007年にホーチミン起業家登龍門をプロデュース。その際、ベトナムの成長可能性を大きく感じ、2010年3月株式会社VIT Japan設立。以来ベトナムにて活動中。