
「技能実習生、ベトナム人の次はインド人になるのではないか」
外国人材に関わる方の間で、近年そんな声を耳にする機会が増えてきました。
そこで今回は、長年ベトナムに在住し、現地の人材事情を見続けてきた株式会社VIT Japan代表取締役・猪谷太栄氏が先日インドで人材関係の調査をしてこられたのでお話を伺いました。
猪谷氏がインドを訪れるのは、今回ですでに3回目。
今回は4日間にわたって現地を視察し、デリーやグルガオンなどを訪問。さらに、インドに18年、26年、35年と長期間暮らしている日本人からも、現地の人々の気質や働き方について話を聞いたそうです。
実際にインドを訪れてみて、日本の技能実習・外国人材の新たな送り出し国として可能性はあるのでしょうか。
そして今回の視察で浮かび上がってきたのが、同じインドでも少し異なる特徴を持つ「北東インド」の人材でした。
なぜ今、技能実習生の送り出し国として「インド」が注目されているのか
技能実習生の送り出し国と聞いて、まずベトナムやインドネシア、ミャンマー、フィリピンなどを思い浮かべる方は多いでしょう。
一方、インドは世界最大級の人口を抱える巨大な人材市場です。
日本とインドの間では、2017年に技能実習制度に関する協力覚書(MOC)が締結されており、インドから技能実習生を受け入れるための枠組み自体は以前から存在しています。
それでも、これまで日本の技能実習制度においてインド人材が大きな存在感を持っていたわけではありません。
では、なぜ今になって注目されているのでしょうか。
背景の一つとして考えられるのが、送り出し国の多様化です。
これまで多くの外国人材を日本へ送り出してきた国々でも、経済成長や賃金上昇などによって、日本で働くことの相対的な魅力は変化しています。
今後も外国人材を安定して確保していくためには、特定の国だけに依存するのではなく、新たな国・地域へ目を向ける必要があります。
その候補の一つが、膨大な人口を抱えるインドというわけです。
しかし猪谷氏は、
「インドを一つの国として見てしまうと、実態を見誤る可能性がある」
と話します。
「インド人」で一括りにはできない
今回、猪谷氏が現地で強く感じたことの一つが、地域による違いでした。
インドは非常に広大で、地域によって言語や宗教、文化、生活習慣などが大きく異なります。
そのため、日本側が単純に「次はインド人を採用しよう」と考えるだけでは十分ではありません。
猪谷氏はこれまでの視察や現地関係者へのヒアリングを通じて、北インド、南インド、そして北東インドでは、人材の特徴や日本企業との相性にも違いがあると感じたといいます。
実際、北インドや南インド出身者を日本へ送り出した事例では、職場や生活環境とのミスマッチが起きたケースも耳にしたそうです。
もちろん、これは「北インド人・南インド人は日本に向いていない」という意味ではありません。
個人差が大きいことを前提としたうえで、採用する地域や本人の価値観、日本で働く目的まで確認する必要があるということです。
「契約と違う」と帰国してしまうケースも
猪谷氏が現地で聞いた話の中には、日本側にとって考えさせられる事例もありました。
あるケースでは、約100人を受け入れたものの、そのうち約40%が途中で帰国してしまったといいます。
不法滞在や失踪をしたわけではありません。
「聞いていた仕事内容・条件と違うのであれば帰ります」と、自ら帰国する人が相次いだというのです。
これはインド人材を考えるうえで、非常に重要なポイントかもしれません。
技能実習生というと、日本側が「せっかく日本まで来たのだから、多少の不満があっても働き続けるだろう」と考えてしまうことがあります。
しかし、それがすべての国・地域の人材に当てはまるとは限りません。
採用時に説明した仕事内容や待遇と実態にズレがあれば、「それなら帰国する」という選択をする人もいます。
送り出し機関や受入れ企業にとっては、採用前の説明と実際の就労環境を一致させることが、これまで以上に重要になりそうです。
そこで浮上した「北東インド」
今回の視察で猪谷氏が特に可能性を感じたのが、北東インドの人材です。
北東インドは、ブータンやバングラデシュ、ミャンマーなどと国境を接する地域で、デリーなどを中心とする北インドとは文化的にも異なる部分があります。
猪谷氏が現地関係者から話を聞いたところ、北東地域には比較的穏やかな気質の人が多いと評価する声がありました。
さらに注目したのが宗教です。
北東インドの一部地域ではキリスト教徒の割合が高く、今回話を聞いた関係者からは、そうした地域の人材について「ホスピタリティを大切にする人が多い」という評価も聞かれました。
実際に、介護やホテルなど、人とのコミュニケーションや気配りが求められる仕事との相性に期待する声もあるそうです。
北東インドだけでも非常に大きな人口規模(約5000万人)があり、新しい外国人材の供給地域として考えれば、大きなポテンシャルがあります。
日本語を勉強する姿勢にも驚き
猪谷氏は今回、実際に北東インド人材の授業も見学しました。
教室は非常に静かで、授業中に積極的に発言するというより、集中して日本語を勉強している姿が印象的だったといいます。
もちろん一度の視察だけで人材全体を評価することはできません。
しかし、これまで複数回インドを訪問してきた猪谷氏にとっても、今回見た北東インドの人材にはこれまでとは違う印象があったようです。
海外で働くこと自体についても抵抗感が比較的小さく、海外就労への関心を持つ人材もいます。
一方で、日本語教育は当然必要になります。
英語を話せる人材が多いインドですが、日本の技能実習や介護などの現場では、日本語によるコミュニケーションを避けることはできません。
英語力だけを見て「インド人材ならコミュニケーションに困らない」と判断するのではなく、日本で働くための日本語教育をどのように行うかも重要になります。
インド人材の可能性は「国」ではなく「地域」で見る
今回のインド視察から見えてきたのは、
「ベトナム人の次はインド人」
というほど単純な話ではないということです。
約14億人という巨大な人口を抱えるインドだからこそ、「インド人」という一括りで人材を見るのではなく、どの地域から、どのような人材を採用するのかを考える必要があります。
猪谷氏が今回特に注目した北東インドについては、
- 比較的穏やかな人材が多いとする現地関係者の評価
- キリスト教徒が多い地域があり、ホスピタリティを重視する文化との親和性が期待される
- 介護や宿泊などの対人サービスとの相性が期待できる
- 海外就労を選択肢として考えられる人材層がいる
- 人口規模が大きく、将来的な人材供給力が期待できる
といった点に可能性を感じたといいます。
一方で、採用すれば必ず定着するわけではありません。
仕事内容や待遇について事前に正確に説明すること、日本語教育を行うこと、地域や個人の特性を理解したうえでマッチングすることが不可欠です。
「次の送り出し国」を探す時代へ
これまで日本の外国人材受け入れを大きく支えてきたベトナム。
しかし、外国人材を取り巻く環境は急速に変化しています。
これからは「どの国から人を集めるか」だけではなく、その国のどの地域から、どのような人材を採用し、どの仕事とマッチングさせるのかまで考える時代になっていくのかもしれません。
今回で3回目となった猪谷氏のインド視察。
北インド、南インドを含めて実際に現地を見てきたからこそ、今回新たに見えてきたのが「北東インド」という選択肢でした。
果たして数年後、日本の介護施設やホテル、製造現場などで北東インド出身の人材を見かけることが当たり前になっているのでしょうか。
「ベトナム人の次はインド人なのか?」
その答えはまだ分かりません。
しかし今回の視察からは、少なくとも北東インドが、日本の外国人材における新たな選択肢の一つになる可能性が見えてきました。
株式会社VIT Japan 代表取締役
猪谷 太栄 氏 (Inotani Takahide)
大学卒業後、関西の大手私鉄会社に就職。その後、ベンチャー企業支援コンサルタントに転職し、アジアへの進出支援、ビジネスマッチングイベントのプロデュースも行う。2005年、上海起業家登龍門、2007年にホーチミン起業家登龍門をプロデュース。その際、ベトナムの成長可能性を大きく感じ、2010年3月株式会社VIT Japan設立。以来ベトナムにて活動中。



